オーステンパー球状黒鉛鋳鉄(ADI)ができるまで
鋼はオーステナイト化した後に恒温変態(ベイナイト化)させると、未変態オーステナイト→ベイナイト(フェライト+セメンタイト)のごとくベイナイト変態が生じます。一方、ダクタイル鋳鉄の場合は、鋼の場合とは異なり下記のように二段階で変態が進行することになります。
- 第一段階反応
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未変態オーステナイト ベイニティックフェライト+炭素富化安定オーステナイト - 第二段階反応
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炭素富化安定オーステナイト ベイニティックフェライト+セメンタイト(ベイナイト)
第一段階反応は、まず黒鉛の周りから始まり、未変態オーステナイトから炭素溶解度が低いベイニティックフェライトが析出する。
このためにベイニティックフェライトの周りのオーステナイトは炭素が濃化されて、炭素富化安定オーステナイトとなる。
鋼の場合には、この段階で炭化物(セメンタイト)が析出してベーナイト組織が得られることになる。
更に恒温保持を続けると二段階反応が始まり、セメンタイトの析出により、脆化が急激に進む。
ADIの高強度・高靱性の性質は、第一段階反応の結果として得られるベイニティックフェライト+炭素富化安定オーステナイトの二層混合の組織によるものです。
また、ADIの組織にオーステナイトが混合することが、耐摩耗性には有利に働く一方、
オーステナイトが加工誘起マルテンサイトに変態するために、機械加工性を害することとなっています。